2019-12-9 改定
■「企画展の楽屋裏その四」を発行■
企画展「トアロード~お洒落で不思議な国際通り」の会場資料「企画展の楽屋裏その四」を発行しました。第4弾は坂道のファンタジーを描いた稲垣足穂の話が中心です。また、トアロード周辺を散策した堀辰雄とのエピソードも紹介します。「その一」(谷崎潤一郎とトアロードなど)、「その二」(久坂葉子など)、「その三」(西東三鬼など)も会場に置いています。よろしかったらどうぞ。
■表紙の中の小松左京~蔵出し展示第4弾■
神戸文学館が所蔵している資料を展示する「蔵出し展示」の第4弾を始めました。今回は「小松左京」です。今回の展示のメーンは、晩年に50巻まで発行された「小松左京マガジン」。その表紙には様々な「小松左京」の姿が描かれました。アンパンマン風、ルパン三世風は誰もが知っているタッチ。そのほかにも意外な人が小松を描いています。
また、「モリ・ミノル」という名で発表していた漫画の復刻本も展示しました。どうぞご覧ください。
■様々な顔を見せるトアロード■
企画展「トアロード~お洒落で不思議な国際通り」を開いています。トアロードは居留地と山の手の住宅地を結んだ神戸を代表する坂道。昔から文学の舞台になってきた道でもあります。谷崎潤一郎はお洒落で高級な街として、稲垣足穂はファンタジーの舞台として、西東三鬼はコスモポリタンたちが集う場所として描いています。様々な顔を見せるトアロードをご覧ください。
■陳舜臣コーナーを新設■
神戸ゆかりの作家・陳舜臣のデビュー作初版本や直筆原稿(複製)、写真などの資料を集めた「陳舜臣コーナー」を常設展示スペースに新設しました。また、サロンの書棚には陳舜臣全集をはじめ『枯草の根』『三色の家』といった初期のミステリーのほか『阿片戦争』『小説十八史略』など代表作として知られる中国歴史小説などを並べた陳舜臣の閲覧コーナーも設けています。陳舜臣の企画展は終了しましたが、神戸を愛した作家の資料や作品の一端をお楽しみください。
神戸文学館は、明治37年(1904)関西学院のチャペルとして建てられた由緒ある建築です。
歴史を感じる赤レンガ造りのチャペルの外観をそのまま残して平成5年4月に、尖塔部分も完全に復元し、以来王子市民ギャラリーとして神戸市民に親しまれてきました。
このたび、あの阪神・淡路大震災も乗り越えた、市内に現存する最古のレンガ造り教会建築物が、神戸にゆかりのある文学者たちの息吹を、今に伝える「神戸文学館」として、生まれ変わることとなりました。
神戸文学館は明治以降の神戸にゆかりのある文学者を時代ごとのテーマに沿って紹介しています。
またサロンでは、神戸を愛し、神戸を描いた作家達の作品を自由にご覧いただけます。(入館無料)
平成18年12月4日「神戸文学館」として、内装をリニューアルして開館しました。
正面から見た神戸文学館
南東から見た神戸文学館
ライトアップに映える文学館
満開の桜と文学館
前庭に咲く紫陽花
正面玄関
関西学院発祥の地
記念碑は、創設者ランバスの自筆サイン、吉岡美國 第2代院長の自筆サインと 「敬神愛人」、 ニュートン 第3代院長の自筆サイン、ベーツ 第4代院長の自筆サインと ”Mastery for Service" さらに学院沿革の碑文が刻まれ、旧礼拝堂階段の飾り石が配置
関学を創ったひとたち(関学のホームページから)
1904年10月 献堂式のブランチ・メモリアル・チャペル
関西学院 原田校の航空写真
1910年頃のブランチ・メモリアル・チャペルと校舎ブランチ・メモリアル・チャペルでの講話風景
平成5年4月、設計・一粒社ヴォーリズ建築事務所、建築・新井組により、明治37年(1904)建築当時(110年前の外観)に甦りました。
戦災で失われたままだったチャペルの尖塔や柱頭の飾りを古い写真を元に再現されました。柱頭の飾りは、アカンサス模様でまた梁の根元にも彫刻が施されています。
このチャペルの特徴は、ハンマービーム・トラスと呼ばれる大きなアーチ型の梁を組んで屋根を支えているところです。
スパン10.6mもあり歴史的にも貴重な建築物です。外壁は焼夷弾により焼けた傷跡のあるレンガを一部そのまま使っています。レンガの積み方はイギリス積み(レンガには他にフランス積みアメリカ積み等がある)。
瓦も昔の瓦の色に合わせて、数種類の瓦をまぜてわざと古い感じを出しています。ステンドグラス窓にも大きな特徴があり、色は2種類ですがラムネ色をしています。また窓ガラスにも特徴があり葡萄曼文様の装飾(エッチング)が施されています。窓ガラスの開閉取っ手も、飾り石と同じ模様で造られています。
神戸文学館は、神戸市内に現存する最古のレンガ造りの教会建築としてその優美な姿を21世紀に伝えていくことでしょう。
明治・大正・昭和・平成の時代ごとに、神戸で活躍した作家を当時の風景写真とともに作品や原稿、資料、愛用品を展示紹介しています。
神戸ゆかりの作家として小泉八雲、谷崎潤一郎、横溝正史、賀川豊彦、稲垣足穂、モラエス、竹中郁、遠藤周作、島尾敏雄、久坂葉子、司馬遼太郎、石川達三、林芙美子、堀辰雄、野坂昭如、陳舜臣、妹尾河童、岡部伊都子ら42人の作品や資料を展示しています。
常設展示コーナー
竹中郁コーナー
岡部 伊都子コーナー
憩いの場所コーナー(香り高いコーヒーを楽しみながらの読書をどうぞ)
ハンマービーム・トラスの天井
葡萄蔓文様の窓ガラスと開閉取っ手
企画展「久坂葉子がいた神戸」の展示コーナー(この企画展は終了しています)
土曜サロン・文学講座
土曜サロン・コンサート
神戸文学館を設計した一粒社ヴォーリズ建築事務所は、1910年(明治43年)創立以来数多く設計建築しています。
今でも現存している建物は、大丸百貨店(心斎橋店、京都烏丸店、神戸居留地38番館)関西学院大学、神戸女学院大学、啓明女学院、同志社大学、滋賀大学、豊郷小学校、近江兄弟社学園、明治学院大学他、フロインドリーブ・パン工房(旧神戸ユニオン教会)、パルモア学院、神戸YMCA、カネディアンアカデミー、六甲山神戸ゴルフ倶楽部のクラブハウス、ヴォーリズ、六甲山荘、その他教会、学校、病院、邸宅等が多数残っています。
居留地と北野町を結ぶトアロードは開港以来、神戸を代表する坂道です。雑居地として開発された北野あたりに外国人が住むようになり、職場(居留地)と住居(北野町)を真っ直ぐに結ぶ道として整備されました。
日本語だけでなく英語表記の看板を掲げた店が並ぶハイカラな街並。何となく漂う異国情緒と高級感。いかにも神戸らしい情景は時代を超えて文学作品の舞台になってきました。
谷崎潤一郎は『細雪』で高級イメージの代名詞として登場させ、俳人の西東三鬼は小説『神戸』でコスモポリタンな人が集まる場所として描きます。稲垣足穂が描くトアロードは不思議の世界の入口のよう。関西学院在学中の今東光はトアロード沿いにあった喫茶店に通い、後輩だった足穂はその喫茶店に憧れながら珈琲の香りのする店頭を通り過ぎます。一瞬のきらめきを放った久坂葉子は坂道沿いの家に暮らしました。
企画展ではこの坂道を象徴するトアホテルが焼失する昭和25年ごろまでを取り上げます。「トアホテルがあったトアロード」。文学作品の案内で時を超えた“散策”に出かけます。
■ 展示内容
※ トアロードを舞台にした文学作品引用。
※ トアロードや周辺の写真パネル。
※ 明治・神戸の雰囲気を伝える品。
※ 久坂葉子ゆかりの品。
※ その他
2019年10月1日(火)~12月24日(火)
企画展「トアロード~お洒落で不思議な国際通り」(12月24日まで)も最終月となりました。最後は稲垣足穂について少し触れます。多くの足穂作品に登場するトアロード。足穂にとっては、ハイカラ神戸の中でも最も波長の合った情景だったのでしょう。
神戸のことを知っている人は、きっと三宮の東にある山の方へ一直線につづいているアスファルトの長い坂を知っているにちがいない。で、その正面には木立にかこまれてお伽話式の尖塔を出している赤い建物がある。これが神戸名物の一つであるトアホテルだ、――だからこの坂のことをみんなはトアロードと云っている。(稲垣足穂『神戸漫談』)
足穂の神戸原風景にはトアロードが刻まれていたのかもしれません。何しろ、お伽話の尖塔を持つホテルがあるのですから。現実がファンタジーでした。(館長)
企画展記念講演「託した『美の幻影』~谷崎潤一郎と映画製作」(講師:津田なおみさん)を聴きました。神戸を題材に、お洒落で高級感あふれるトアロードを小説に描いた谷崎潤一郎。『細雪』など映画化されたものも多いですが、実は谷崎自身も映画製作に関わっていた時期があるとのことでした。残念なことに映像は残っておらず、シナリオしかないそうです。
耽美主義作家としても知られる谷崎。美の映像化を人任せではなく、自らの手で実現してみたくなったのかもしれません。谷崎の映画製作との関わりは、結局2、3年で終止符が打たれました。津田さんによると、自分の追求する美というものを、映画を通して実現できると意気込んだけれど、自分の表現したいものは文学を通してしか出来ない、と思うようになったのではないか、ということでした。
想像の中で美へのこだわりが増せば増すほど、表現するためのハードルは上がります。谷崎が製作した映画はどこまで実現できたのでしょう。ひょっとすると、映像が残っていないというのは、谷崎にとっても私たちにとっても良かったのかもしれません。(学芸員 志賀要子)
来年の話をすると、鬼に笑われそうですが、2020年1月末から予定している企画展について少し書きます。
神戸文学館では常設展示しているもの以外にも資料類を所蔵していますが、スペースの関係や資料劣化を防ぐためなどの理由で、すべてを展示はしていません。
そこで来年1月末から、文学館の「蔵」の中にある資料の一部を展示する企画展を開くつもりです。「蔵出しアラカルト」と名付けました。コース料理ではなく、一品料理のような企画展といったところでしょうか。メニューを少し紹介すると、映画看板作家の山本一夫が描いた『獄門島』(横溝正史)の油絵、『唐人お吉』(十一谷義三郎)の直筆原稿など…。
普段は見ることのできない「文学館」を感じてもらえれば、と思っています。(館長)
蔵出し展示第4弾で取り上げている小松左京。SF作家として知られていますが、今回は大学生時代にモリ・ミノルとして描いた漫画の復刻版『幻の小松左京モリ・ミノル漫画全集』を展示しています。
中学生のころ、手塚治虫さんの作品にいたく感激して、漫画熱が高まり、習作を描きまくっていた。(『小松左京自伝 実存を求めて』)
その影響か手塚治虫漫画風で、学生の作品にもかかわらずよく売れたそうです。
もう一つのメーンは小松が2001年に70歳になってから「わがままな個人雑誌を作りたい」と創刊した「小松左京マガジン」。2011年7月に小松が亡くなった後も刊行され、第50巻で最終号になりました。有名な漫画家やアーティストによる小松の「顔」が表紙で、アンパンマンなど人気キャラクターを模したもの、オリジナル似顔絵など描き手の小松への温かい思いが伝わります。よろしければご覧ください。(秋津陽子)
「小松左京」以前のモリ・ミノルの漫画のタッチは手塚治虫を思い起こさせます。それもそのはず、モリ・ミノル誕生には手塚の影響がありました。
蔵出し展示している復刻版漫画全集の第4巻に「漫画と文学に明け暮れた青春」と題した文章が載っています。2001年のSF大会での小松の発言をまとめたものです。
『新宝島』は、それまでのコマ割りを打ち破った映画のモンタージュの手法なのです。読んでいるうちに、これは漫画表現の革命なのではないか、と思ったのです。それで、手塚さんに入れ込んでというか、その影響で自分でも描いてみたんです。
漫画を描くきっかけは手塚作品でした。雰囲気が近くなるのも当然かもしれません。学生時代に出した作品は新聞にも取り上げられ、よく売れたそうです。同じ文章の中で当時のことを振り返っています。
原稿料として三千五百円を現金でもらいました。当時、一家が一カ月七百円で暮らせた時代です。しかし、その次の月には一千五百円となるような超インフレの時代でした。それでもいい小遣いにはなりました。まさに、生活のために漫画を描いたんです。
小松は「いい小遣い」と言っていますが、インフレの時代でも生活費2カ月以上。『日本沈没』とは比べものにはなりませんが、「いい稼ぎ」です。
そんな小松が漫画家を続けなかったのにも、実は手塚の存在がありました。
手塚さんの何冊目かの本、たしか『メトロポリス』だったと思いますが、写真版だったんです。それを見て、ぼくはもう手塚さんにはかなわないと考えたんです。写真版は漫画家の絵の力量をそのまま出してしまいますからね。(「漫画と文学に明け暮れた青春」)
漫画家を断念した理由の一つには、手塚との画力の差があったようです。漫画家「モリ・ミノル」を生んだ手塚は、その後に漫画家を断念させてSF作家「小松左京」を生み出したのかもしれません。
余談ですが、引用した文章には、小松が戦前の少年時代に海野十三の冒険科学小説を読んでいたことも書かれています。常設展示の横溝正史の横に海野の展示が少しありますので、ぜひご覧ください。いかにも小松が好きそうな「設計図」があって面白いですよ。(館長)
12月21日(土) 午後2時~3時半
2018年7月に開催した「ビートルズが教えてくれた」の好評にお応えしての続編です。今回は今林さんが所蔵するアナログ・レコードで、ビートルズの名曲を聴いていただきます。
日本では、昭和40年代ごろ。世界の若者たちに地球規模でサブカルチャーから人生観にまで大きな影響を与えたといわれるイギリスの4人組のロックバンド「The Beatles」。今回は当時のアナログ・レコードの「音」を楽しんでいただくとともに、今林さんの解説で、名曲誕生の秘話なども紹介し、ビートルズが「音楽」や「言動」で世界に伝えたかったメッセージは何だったのかを探ります。
1月11日(土) 午後2時~3時半
小説とはどうのように作られるのでしょうか。
妄想、構想、登場人物、プロット、展開、余韻など…。作家の松宮宏さんが自らの執筆体験をもとに、「小説家の仕事」を解説します。
松宮さんは神戸在住の作家で、長田のお好み焼きソースを切り口にして下町模様を描いた『まぼろしのお好み焼きソース』など神戸を舞台にした作品が多くあります。
今回の講演では「小説の作り方」を2部構成で解説。特に第2部は神戸のJazzをテーマにした最新刊『アンフォゲッタブル』を取り上げて、「ひと」「街」「音楽」を素材としたストーリー発想の原点・物語の展開を、作品に登場する曲とともに紹介します。演奏はジャズミュージシャンの西江花梨さん(ピアノ)、梅本慈丹さん(ベース)です。
作品の世界観を作家の言葉と生演奏で感じてください。
1月18日(土) 午後2時~3時半
詩を読んでいると、詩のなかの「私」は誰なのだろうと考える時があります。作者自身なのか、それとも全く架空の「私」なのか。仮に「作者」=「詩の中の私」という意識で書かれていても、果たしてそれは可能でしょうか。そこには「ことば」というものが持つ大切なはたらきが関係しているように思います。
神戸新聞の読者文芸の投稿詩から、現代詩の最前線まで、さまざまな詩を読み解きながら、詩を書くということはどういうことかを考えます。
2月29日(土) 午後2時~3時半
名所の文豪・森鷗外は、『万葉集』の時代から「菟原処女の伝説」や「生田川伝説」として伝えられてきた話を戯曲『生田川』として著しました。
今回の文学講座では、『生田川の』の作品鑑賞を中心に、古典籍との比較などをしながら鷗外の独創性や、なぜ彼が明治時代にこの戯曲を書いたのか、といったことについて考えていきます。